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三重県中勢児童相談所における4歳児虐待死事件についてのCAPNAとしての提言

報道されている以下の事件経緯・内容の限られた情報によっても、幼い子どもの痛ましい虐待死を繰り返さないために、CAPNAとして以下の事項の検証や取組の推進が必要であると考えます。

Ⅰ 新聞報道等からの経緯(時系列)

日付出来事
2019年2月生後間もなく、母が「シングルマザーで子どもがいると仕事に行けない」と児童相談所(以下「児相」という)に相談。児相が一時保護
2019年6月乳児院に措置入所
2021年3月家庭引き取り(①祖父母の育児支援、②保育園への通園が条件)
2021年4月保育園に入園
2022年2月8日保育園が虐待の疑いで津市を経由して児相に通報「両ほほ、両耳にあざ」。児相が本児と母に面談。母「ベッドから落ちておもちゃ箱に顔を突っ込んだ」⇒ 児相一時保護せず
2022年3月児相が母子に対して最後の面談。3か月に1回の聞き取り〈直接面談なし〉
2022年7月8日本児が最後の登園。保育園から児相へ連絡なし(?)。要対協で議題に上がる
2022年8月9日児相が保育園に聞き取り。長期欠席を確認
2022年11月7日要対協実務者会議
2022年12月1日児相が保育園に聞き取り。長期欠席を改めて確認。児相は自宅へ連絡したが,「応答なし」
2023年1月保育園が家庭訪問。本児の姿を確認。児相には報告せず。
2023年2月15日要対協実務者会議
2023年2月27日児相が保育園に聞き取り「Hちゃん行きたくない」「長女は問題ない」。児相は「問題なし」と判断
2023年4月1日保育園が母と面談。本児は「元気」と聞く。児相には報告せず。
2023年5月15日児相が保育園に聞き取り。本児への面談を検討。
2023年5月25日夜意識不明となり救急搬送
2023年5月26日朝死亡。体重12キロ

Ⅱ CAPNAとしての提言

1 一時保護について

  1. 子どもの安全確保の重要性についてどの程度の認識であったのか。措置解除後の安全確認,保育所での通報[頭部外傷]があったときに一時保護をしなかったことが適切であったと、はたして言えるのでしょうか。
  2. 2022年2月に保育園が子どもの「両ほほ、両耳にあざ」を認め、児相に通

報した際に、保育園側とともに子どもの上記の注目すべき危険な部位の外傷の

成因等、リスクアセスメントの検討をしたのか、という疑問があり、検証が必

要です。母親の上記外傷の原因に関する説明の合理性について、法医学的な専

門医の助言を得る必要はなかったのか、検証が必要です。

  1. 危険な部位(頭部)への外傷はケガの程度に関わらず極めてリスクが高く、「一時保護決定に向けてのアセスメントシート」においても緊急一時保護の検討が必要とされています。
  2. 現時点で児童相談所として「一時保護しなかったのは適切な判断だった」とコ

メントしているが,なぜ「適切な判断であった」と言えるのでしょうか。

  1. 一時保護しないと判断した後の継続的見守りについて、児相はどのように保育

園と連携したのか、とくに子どもの視点に立って、母への子育て支援、見守り

について、保育園と連携していたのかについても、検証が必要です。

2 家庭復帰後の関わりについて

  1. 2021年3月の家庭引き取りまで、面会、外出、外泊による関係構築や関係機関との支援ネットワークづくりなど、家族再統合に向けてどれだけ手間をかけたのでしょうか。また、家庭復帰後に新たに虐待が起こるリスクもあることから、継続指導や児童福祉司指導による援助を行う必要があったのではないでしょうか。
  2. 2021年3月の家庭引き取りの際、保育園に通わせることを家庭復帰の条件としたと報道されています。

このとき児相と保育園との連携のあり方を相互にどのように確認し、引き継がれていたのでしょうか。

  1. 家庭復帰後の児童相談所としての家庭(親)支援として十分であったといえるのでしょうか。児童福祉司の家庭訪問を一年間していたようであるが,その後の継続をしなかったことの是非。とりわけ要保護児童対策地域協議会との連携や民生・児童委員への家庭訪問や見守りをしていなかったのはなぜでしょうか。
  2. 2022年7月から子どもが登園しないことが、保育園から児相にその都度報告されていたのか、同年8月と12月に児相が長期欠席を確認したとすれば、子どもの見守りのための連携の在り方に問題があったと考えられ、検証が必要です。
  3. 2022年12月に不登園、家庭連絡への応答なしは、子どもの視点に立てば、ハイリスクと推定すべき状況であり、この経緯について、検証が必要です。

これまでの死亡事件の検証でも子どもの姿を確認できないこと自体をリスクと捉え安全確認等を行うよう指摘されていることから、出頭要求や立入調査など法に基づく権限を適切に行使して安全確認等を行う必要があったのではないでしょうか。

また、子どものアセスメントを行う場合、きょうだいであっても生育歴や保護者との関係性が異なるため、きょうだいの養育に問題がないから本児も問題なしとする判断については、検証が必要です。

  1. 上記時期には、地域の民生・児童委員などとも児相が連携して情報を収集する見守りの体制をとれば、子どもの泣き声情報なども得られたはずであり、児相の子どもの視点に立った子育て支援、見守りのケースワークの在り方について、検証が必要です。
  2. 生後間もない頃から2年間、愛着形成において重要な時期に養育できなかったことは、家庭復帰後の親子関係形成に困難をもたらすであろうことは予測すべきだったのではないかと考えます。虐待通告があった時に一時保護が必要だったことはいうまでもありませんが、保護しなかったとしても、虐待相談に切り替えて改めてアセスメントを行ったうえで援助方針を見直す必要があったのではないでしょうか。
  3. 少なくとも保育園に通わせること、祖父母の育児支援を受けることが家庭復帰の条件だったにもかかわらず、守られていない時の方針見直しが必要であったと考えます。

3 他機関との連携について

児相として要保護児童対策地域協議会に本件ケースを報告していたとされていますが、要保護児童対策地域協議会としては,どのような対応を予定していたのでしょうか。

4 AIの活用について

三重県はリスクアセスメントを行う際に、AIを活用していると聞いていますが、本件においてはどのような評価であったのでしょうか。

5 今後に向けて

  1. 民間の力を活用したネットワークが今後検討されるべきではないでしょうか。児童相談所の児童福祉司が家庭訪問しなくても,全米で行なわれている「ヘルシー・アメリカ」のような専門支援員(CAPNAとしてはコロラド州でのヘネシー澄子教授の下でヘルシー・アメリカの視察研修をしています。)の家庭訪問事業が必要だと思います。実際に,我が国で2005年に始まった出生後4カ月以内の乳児家庭全戸訪問事業(こんにちは赤ちゃん事業)は,「ヘルシー・アメリカ」をモデルとしています。

日本では民生・児童委員等の活用が考えられますし,その人材養成をするべきであると思います。この事件を踏まえて,今後民間団体や民生・児童委員等への家庭訪問支援事業を検討するべきではないでしょうか。

  1. 2022年の児童福祉法改正において、子育て家庭への支援の充実が規定されています。今後、身近な市町村において、訪問による生活支援、短期入所支援の質・量の充実とともに、親子関係形成支援を行う必要があります。また、子ども家庭センターを中心に地域の支援ネットワークを構築し、児相とも協働しながら、早期に包括的支援を行う体制の確保が必要です。
  2. 今回の事案においても、近隣の方が「子どもの泣き声」「怒鳴り声」「暑い時期の車内放置」を心配していたという報道がされています。通告は「告げ口」ではなく「支援の第一歩」というPRなど、虐待についての通報をためらわないように、189の周知も含め一層広報活動に力を入れるべきではないでしょうか。

以  上

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